サイクリング

2004/10/21S

秋風が激しくコートを揺らした。
横から吹きつけた強い風に、ペダルを回すのをやめて慣性にまかせる。
気持ちのいい風に目を細めた。
「しっかりこげよ―鋼の―」
若い者がサボっちゃいかんなァ。
即座に背後からしたりげな言葉が飛んでくる。
「へーへ―。振り落とされないようにしっかりつかまってろよ、30才」
「だァれが30だ!」
「あと何日かだろ」
ゆっくりこぎ始めれば、答えがない。
あまり整備されていない道の二人乗りでは、振り返って荷台に腰掛けている男の顔を見る余裕はなかった。


「――どうしたよ」
気が進まないながらも声を張り上げる。風に奪われた声は、届くだろうか。
「――考えてもみなかったから」
きみが私の誕生日を知っているとは、とどこかのんびりと男は言った。だから逆に頭に熱が上る。
いつもみたいにわざとらしく嬉しそうに言うのなら、バカかと言って終わりにできるのに。
「受付嬢たちが大騒ぎしてたんだよ」
吐き捨てるように言えば、照れ隠しかい、と楽しそうに言う。そう、これなら馬鹿じゃねーの、と言えるのに。
「あと、少尉たちもなんか用意してたぜ。何しろ大佐の20代へのサヨナラ記念だしな」
「どうせろくでもないものだろう」
「本人たちはすっげェ楽しそうだった」
「大方、予想はつくがな」
嫌そうな声にほっとする。いつもの会話だ。
腰をサドルから上げ、ぐんとスピードを上げた。背後の男はおっとと言って荷台をつかんだ。



コートに抵抗を感じて振り向くと、男はコートの裾をつかみ頬を寄せて目を閉じていた。あまりにキモかったので俺は慌てて前を向いたが、どうにもその絵が目の前に浮かんで仕方なかった。
それと何となくコートにほほをこすりつけた大佐がこちらの様子を片目でうかがっている気がした。
もう一度振り返れば、きっとにやりと口を歪めるのだろう。

ちっきしょう。
口の中で呟いた声は風にまかれて消えていく。
見せたかったはずの一面のコスモス畑に辿り着く前に、日が暮れそうだった。


ご旅行は計画的に!(違)
えー当初の予定では、ちゃんとコスモス畑に辿りついて、キスイベントなんかもぽこぽこ発生しちゃったりする予定だったんですけどー。
ちなみに今日はプライベートでは姉の誕生日ですが、大佐の誕生日ネタとは関係ございません。だってずいぶん前から途中で放置してあったしね!(威張れない)




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