水の性

2005/01/30

「不思議なもんだな」
少年は馬上から手を伸ばした。
くしゃと前髪をかき分けられ、額に触れてくる――その金属の指。
血が通っていないのに、それはどこか体温にも似た熱を発している。五精の循環ゆえ――わかっていても錯覚しそうになる。それはあまりに精緻にできているので。

一体彼は何を失ったというのだろう。
失った右腕と左足。それこそが彼を欠落の王たらしめているというのに、なぜ彼は完全に見えるのだろう。むしろその鋼の右腕と左足を得て、はじめて完全になったとでもいうような。

はじめて会った時、五体満足だった彼はただの子供だった。
だが、再会した時には、欠落の王となっていた。
そのたった2年の年月が、不可思議な作用を持っていたとしか思えない。

「あんたは生粋の焔でありながら、その性質は水なんだからな」
この世でただ一人の、五元素全てを操る錬金術師は人の性質までも容易に見抜く。ロイは額から手をどけさせた。
「祇であることと水の性は両立しうる」
眉をひそめた自分の表情をどう解釈したのか、少年は首を横に振る。
「そうじゃない。焔の祇だからこそ水でなくてはならないんだ。魂鎮めでわかるだろ」
あんたはやっぱり祇の皇子、正統血統の最後の生き残りだよ。
それほどの水、俺は見たことがない。





「ならお前はどうなんだ。五精を操るマテリアマスターは」
「俺か…」
少年は苦く笑った。
「昔言われたことがあるんだよな。何も知らなかった子供の頃」

遊びに出た市で、占い師に呼び止められた。
「木火土水がこんなにもバランスよく配置されているにもかかわらず、何故金の気が欠片もないか。
嘆かれたよ。こんな者は見たことがない、
それさえあれば王にもなれるのに、とね」
すうと空気が冷える。

「なあ、ロイ。これは定められたことなのか?」
必然だったのか。運命だったのか。
エドワードは鋼の腕を得て、王となった。
「俺は生まれた時から、母と弟を殺して自分も躰を失い、鋼の義肢で王となる宿命だったのか?」
風に黄金の髪がゆらいだ。


== エンヴィー ==
ロイの兄。祇の第一皇子。
かつて赫血の王に呼ばれていった都で無惨にも殺されたと信じられていた。
だが、実際は赫血の王の手によって、暴竜ウロボロスの一員として改造(?)されていた。


祇なのでロイ同様に焔を操る。単純な焔の威力ならロイ以上。
なぜなら。


「お前の焔じゃ僕には絶対に勝てないよ」
すさまじい熱量を背負って、黒衣の青年は笑う。
「なぜだかわかる?」
「お前…何を、した…!」
怒り狂って叫ぶエド。わからないロイ。

「赫血の王…こんな五精を弄ぶような真似しやがって…許さねえ…!」
「あっはっは。君はわかるんだ、欠落の王!」
本来その躰の内にある水の性で、焔を操る祇。
だが、その水を抜き取れば。
「水なんかで僕の焔は抑えられない!」
くるりと焔に巻かれて空中で一回転をする。

「馬鹿が…!」
エドは怒りで声も出ない。
水がなくば、焔は強くなるだろう。だが、それは。
「制御できない焔だっ…!」


ロイの焔に対抗して際限なく引き出されたエンヴィーの焔は暴走し自滅する。
そういう結末。
ついでに次男であるロイに対しては、いろいろ思うところがあったりもする(笑)。
「あにうえ」とか呼ぶ仔ロイが見たい。
帝王学学ばされてたエンヴィーと、大好きなあにうえにかまってほしい仔ロイ。
うわおう。

エンヴィーの抜き取られた水、生命の水。
そうやって他にもそれぞれ抜き取った五精を何かに使おうとしている赫血の王。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送