錬金術師の宿命

ロイエド

2005/10/24

寝台のスプリングが激しく揺れていた。
荒い息づかいとときおり混じる喘ぎ声とはとても言えない呻き声。ひどく扱っているつもりはない。それどころか最高の快楽を与えているという自信がある。問題は彼のほうにかわいらしく喘ぐつもりがないということ。
声を出せば楽になる、とそそのかせば、うっかりすると無防備なみぞおちに肘鉄を食らうことになる。それも正真正銘、鋼の肘鉄を。
裸になっても安心できない相手だ、と軍人は内心にため息をつく。

それは無意識にでも「少年が敵にまわった場合」というものを想定していることを彼自身が気づいていたかどうか?もちろん軍人はわかっていた。彼はひどく身内に甘いが、状況判断に私情を交えない。ただしわかっていても実際の行動には理性と私情と打算が混在し、逆にそれが彼の行動を読みにくくする。

裸になっても安心できない相手なのは、軍人自身も同じこと。
周囲に火の気を絶やさない彼は、たとえ発火布の手袋がなくとも身を守る程度の炎は一瞬で錬成してみせる。それが戦術錬金術師というものだ。

だが、今はとりあえず久しぶりに恋人に再会したばかりなんだから、そんなことは頭から追い出して。
どうも、相手の反応が鈍いのが気になったが、かまわず腰を動かした。




「あ」
肘をついて枕に顔を埋め声を殺していた少年が、不意に体をよじった。
思いがけない反応に、いたずら心が動いて動くのをやめる。
「欲しいなら欲しいと言うんだよ、はが…」
ねの、と笑いを含んだ声で言いかけたロイは、右手の容赦ない張り手をくらってのけぞった。
「ちょっとどけって」
重そうに体を起こすと、少年はサイドテーブルからペンと紙をむしりとって、何か書きつけ始める。
「は、鋼の…?」
「黙ってろって」
鋼の錬金術師はいくつかの数式と記号を書きつけ、さらに単語を足す。
「ええと…コーエンの物理円環式の標準換算表」
「…書棚に最新理学総論が」
裸の少年はさっさとベッドから抜け出し、目的の緑の表紙の本を抜き出すとそのまま床に座り込んで、値を写し出した。

ベッドの上に残された大人一人。
「…あの。寒くないか」
「やっぱりこれイケるんじゃ…バスローブ貸して」
男は本を持ったまま立ち上がった少年に白のバスローブを投げた。
「汽車の中からずっと考えてたんだけど、コーエンの式と過去のテーナーの報告でトム・アーガスがこの間発表した無限鏡の説明をつけられるんじゃないかと思って」
「あいつバカだから、事象の報告で論文終わらせやがって。何かしらの理論的裏づけとかつけとけってんだよ、もう」
それでアクセプトした方もした方だと思うけど。
と、早口でそう言って少年はなんとも言えない顔で一瞬男を眺めた。ベッドに一人残された男の姿に哀れをもよおしたらしい。
「…電話借りていい」
抑揚のない声で少年はそう聞くと返事も待たずに部屋を出て行った。




数語で電話を終え、寝室に戻ってきた少年はそのまま複雑な計算に突入した。
ブツブツときおり呟くが、ものすごい勢いで頭の中の引出しを引っ張り出しているらしく、ロイのわかった範囲ではなぜか雷生成のメカニズムと大麦の成長促進と皮革加工に使用される薬品が関与していた。
何だそれは。
ロイは呆れた。がその一方で、自分が天才を目の当たりにしていることを疑わなかった。


5分もせずに、呼び鈴がなった。
こんな夜遅くに、といぶかしげに首をひねるとエドが本を片手に「俺が呼んだ」と言う。
とりあえずドアを開けた。
「こんばんわ―。ミ―ナでーす」
絶句した。コートを着てはいるが、絶対にその下はものすごく薄着に違いない。派手な化粧、意図的かそうでないかはともかく頭が空っぽに聞こえる、空虚な明るさに満ちた喋り方。
デリバリーなんちゃら…という言葉が頭をよぎる。
「すまない、何かの間違いかと思うんだが」
普段なら何かの間違いでもいただいてしまう程度には好みの顔立ちをしていた。とてもきれいな金髪だし。
だが今はエドがいるのだ!ここで誤解を招くようなことになれば!
「大佐」
背後から少年が声をかけた。
ドアの向こうを隠すようにロイは顔だけをめぐらせた。
「な、何か家を間違われたみたいだ。はは。さっさとお帰りねがおう、うん」
だが焦る男に少年は階段の上からさっきと同じ一言を吐いた。


「俺が呼んだ」


「は?」
めんどくさそうに少年は、だから、と言った。
ちょっと今夜はかまってやれないから、その子を呼んだの。
俺書庫にいるから、邪魔しないでね。
エドはそのまま本を抱えて2階に消えた。
「は…鋼の?」
ロイは立ち尽くした。
「なんかー複雑みたいですけど、どうしますー?
とりあえずミーナ寒いんですけどォ」


もう何も考えたくなかった。


あはは!これウケる!
ちょっと大佐のヘタレ具合がたまらなく笑えるというか!

ミーナは勉強はできないけれど、頭は悪くないので、状況はよく読んでます。 このあと大佐は喰ったのか!?とか言いたいけどできないだろうなあ…(笑)。
居間で暖炉の前で向かい合ってソファにすわり、ミーナに恋愛相談とかしているといい。

エドは気をつかったつもりです…!いじめじゃありません…!




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