夜更けのコーヒー、色気ナシ

2004/02/06

突然帰ってきたかと思うと
「メンテに来てやったぜ」
これはいつものコト。


「ちょっとォ!どうしてこんなになるまで放置してんのよ!」
「そんなこと言われてもなー」
「信じらんないっ…!私の機械鎧を何だと思ってんの!」
「何って俺の腕と足だろ―」
「これはあんたのものである以前に、あたしの最高傑作なの!」



これだっていつものこと。あたしは文句を言いながら機械鎧を外すと、とっととエドに背を向ける。ばっちゃんが適当な足と手をくっつけている音がする。
あたしはそれを聞きながら解体を始める。
上腕部、肘関節、手首。全部パーツに分解する。ねじの一つ一つをナンバリングし、オイルでざっと洗い流す。それでいいものもあるし、磨耗がひどすぎて使えないものも多い。
磨耗してしまった部品は削り出さなくては。
各パーツの合いが良くないのはわかっている。だから耐久性に欠けてるのよね。治すには元から作り直す必要があるのだけれど。
そんなことを考えていたから、聞き流してしまうところだった。



「――今回はゆっくりしていくつもりなんだ…一週間くらいは。急がなくてもいいから」
それは始めて聞くセリフだった。
一瞬右から左へスルーしそうになり、あたしはスパナを握る手を止める。あわてて振り返るけれど。
真紅のコートはもうドアを出て行こうとしていた。
壁に片手をついて慣れない手足でぎこちなく歩く後ろ姿に、あたしは声を掛けそびれた。





3日が過ぎて、手足はほぼ出来上がっていた。
ほぼ徹夜だけど、完徹ではないからけっこう元気なあたしは、ついでに、と図面を広げる。
前から考えていたエドの右腕の機械鎧の改訂版。
今回ある程度まで調整しておいて、今度来た時に着けてあげられたらいい。
素体はできているから、あとは組み上げて…。
開いたままのドアがノックされた。


「どんな感じ」
エドが立っていた。
「明日には着けてあげられるわよ」
「あんまりムリすんなよ」
あたしは目を丸くして、それからうんと、一つうなづく。
「あたしなら大丈夫よ。徹夜なんてザラだし」
なら、いいけどさ。エドはどこか痛そうな顔で笑う。


エド―…なんであたしの前でそういう風に笑うの。何があったの。何が変わってしまったの。
見せかけでいいから、あたしの前ではもっと楽しそうに笑ってみなさいよ。
心配になるじゃないの。





「なあ、ウィンリィ。頼みがあるんだけど」
ばっちゃんには内緒で。
あたしは顔をしかめる。
「何よ…」
言いかけて息を飲んだ。
エドが懐から取り出したもの。ごとりと作業台の図面の上に置かれる。
無骨な金属の塊。
実用一辺倒の。


「分解して見せてほしい。仕組みが知りたい」


「ソロモンAT-37。一時期、軍が正式採用していたモノね」
腹をくくってしまえば後は機械的な作業だった。弾が入っていないのは確認済み。
拳銃を分解したことはないが、猟銃なら経験がある。とはいえ、ずいぶん勝手が違って戸惑った。
ただ性能の良さをひしひしと感じる。装弾も簡単、手入れも簡単。おそらく子供でも扱える。
「一体誰のものよ」
「一番使わなそうに見える人」
…でも、これ使ってある。それもかなり。
それは言えなかった。何となく、エドは知っているような気がした。


分解され解体され、無害な金属の屑となったモノの前でエドは考えこんでいる。
「――銃身を曲げたらどうなるのかな」
確か…それでも撃てるはずだ。
「曲げる角度にもよると思う…でも銃身が短いから、あんまり曲げるともたないんじゃないかしら」
「だよな…それに流れ弾が予測しづらいし」
ちょっとの沈黙。
「暴発したら、どれくらいの距離まで危険?」
「さあ…本人の腕はまず吹っ飛ぶでしょうね。危険なのはちぎれとんだ金属の銃身だし…その飛距離分」


「ねぇ…何考えてるの」
「…いや、単なる興味」
正直すぎる嘘つき。
一体、何を考えているのよ、とわめきたくなって、ふと気づいた。
「…無茶はしないのよ」
あたしはそっとエドの頭に触れて、立ち上がる。
「コーヒー、飲む?」
ん、という返事を背に、台所に立つ。





錬金術は万能じゃない。
それを一番良く知っているのが、エドワード・エルリックという錬金術師。
単に銃を錬成しようとしているのかと思った。
軍のために、そんな仕事まで、そう思った。
でも違う―…。
銃の構造、理解。
――理解、分解、再構築。それは錬金術の。
銃身を曲げたら―?暴発させる―?



コーヒーを注ぐ手が震え、ガラスサーバーがカップに触れてチンと音を立てる。
それが意味するものは。



軍への反逆――か。
少なくとも軍との戦闘の可能性を考えているわけだ、エドは。



言葉にしてしまうと、少しは気持ちが落ち着いた。
あたしには現実味がない話だから、だから平気なんだ。そう思ってちょっとがくり。

エドは気がつくとあたしの手の届かないところを走ってる。
あたしは、いつまでエドの帰る場所でいられる?
いつまで、エドはあたしの所に帰ってくる?
あたしはいつまでそれを信じていられる?


血とか硝煙とか、そんなものとは無関係の、平和な笑顔。
あたしはそうありつづける。
オイルの匂いは勘弁してね。
あんたの家みたいにいっつも甘い匂いがしてる家じゃないけど。
笑顔で迎えてあげることはできるよ。
だから――。



「コーヒーにミルク入れた方がいいかしら」
「バ…ッ!そんなことしたら飲まねェかんな!」
あははと笑いながらマグカップを差し出す。





作業台の上のモノのことは、もう忘れた。





エドとウィンリィ。幼馴染カップル。


一応、例のアニメ設定☆大佐のロックベル夫妻殺しが下敷きで。
拳銃は大佐がしまいこんでいたもので。
しかし、この設定だと、エドは自分の両親を殺した銃をそうと教えずに娘に分解させて…そうとうデリカシーのない奴ですな。
――…実は大佐、銃を持ち歩く人ですけれど。原作でも確かスカーに威嚇射撃とかしてただろ。んで、その銃を中尉が受け取って両手撃ちしてた。


エドが考えているのは、軍への反逆というよりは、大佐と共に大総統に逆らった時のことじゃないかとか考えて萌(末期)。
ウィンはエドに対して恋愛感情だと良い。
大佐とは別で大好き。―あ、エドがじゃなくって私がな!(笑)



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送