深淵よりきたる

2006/04/07

市街地では男たちが舗装をはがしていた。こうしたら軍の車は入って来れねェ。はがした舗装は積み上げてバリケードにするんだ。得意そうに話す男たちをエドは覚めた目で眺めた。
そんなもの、焔の前でなんとなると言うのだろう。舗装ごときゴムのように溶かしてしまう超高温の焔の前で。


この街の人間は、戦いを知らない。
同じ国の西と東で、北と南でなぜこんなにも違うのだろう。常に隣国との小さな火が消えない西と南。大内乱を経験した東。厳しい山々に背を守られた北。
北東のこの地は今まで実に平和の一言だった。問題となるのは戦争ではなく、痩せた大地と冬の厳しさ。不思議なことだとエドは思った。
人は、豊かになると周囲との戦いを選択するのか。

この街が軍に反旗を翻したのは、税率が上がったためだった。
だがそれも当然のこと。このあたりは極端に痩せた土地のため収穫も少なく、そのための優遇措置として、もともとの税率が西や東に比べて低かったのだ。さらに軍は土地の改良や品種改良のための資金提供まで行っていた。それでようやく最近収穫が増えた。
そうなると軍が税率を上げてくるのは当然だろう。
それでも軍は5年待った。彼らの成功が一時のものでないことを確かめるため。彼らに力を蓄えさせるため。

だが人々は5年前から決まっていたそれに今さら憤り、戦争だとわめく。なんと愚かなのだろう。自分たちの正義を本当に信じているのか。
焔が彼らを黙らせれば良い、とエドは身勝手に考えた。
そう、それは身勝手な考えだ。
とどのつまり、エドワードは部外者でしかないのだから。




焔が彼らを黙らせればいい。
…でないと、いらぬ犠牲が出るだろう。


…微妙に庶民に甘いエド。
え、甘いよね。だって軍隊が来て銃弾を撃ち込まれるよりは、大佐の焔に白旗を上げてくれればいいと思ってるんだよ?


いつだって民衆が正しいわけではないということ。
いつも民衆の味方ではない。
でも愚かな彼らを見捨てることもできなければ、そんなことを思うのではないかと。
ロイがくることを望む自分に気づいてはっとすればいいと思います。
それは恋ではない、と否定し、そう否定すること自体が欺瞞で、恋なのだと気づいてしまう賢すぎるエド。





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