君に捧ぐ

ギャグです。ごめんなさい。

2006/09/30

窓の外を流れる景色に見逃しようのない色彩を認めて、軍人は車を停めさせた。
温かなカフェのテラス席に一人。
その輝く黄金。男はどんなブロンドともその色を見間違えたことはない。他のブロンドで彼の不在を紛らわしたことはあっても。
いつも付いて離れない鎧の巨体がその側にないことをいぶかしく思いながらも、最初にかける一声に迷う。
なんて言えばいい?今年の査定を突破できておめでとうか?論文を読んだよとでも?
ああ、確かに彼の論文は実に素晴しかった。彼らしい独創性と論理性、そして何よりも地面に足がついた、とでも言おうか。空論ではない。確かに実践が可能であるところが素晴しいのだ。


「よお、大佐」
迷っている間に少年は振り返って男を認めていた。
「またサボり?中尉に怒られるぜ」
「生憎と私はきちんと仕事を済ませてきたのだよ。君のように一年に一本論文を書けば良い身分ではないのでね」
「生憎と俺もそんなお気楽な立場ではないつもりだぜ。それに俺の今年の結果はあんたにとっても悪いものではなかっただろう?」
悪いものどころではない。あの論文は、今年の査定の中でも注目を集めているものの一つ。去年のばかばかしい乱痴気騒ぎのように衆目を集めていないにしろ、本当に能力のある錬金術師たちが、エドワード・エルリックという才能を再発見した、という所だ。
「ああ、なかなか面白かったが、論のまとめ方がイマイチだ。君は言葉の使い方がなってないからな」
鼻であしらうと、少年の眉がこらえきれずに一瞬ぴくんと跳ね上がった。


あれではすぐに誰かが気づいてしまう。あの錬金術の軍事転用の利点に。彼の理論を利用すれば、敵陣奥深くで爆破を起こすこともできる。時間の設定も自在だ。
この賢い子供は気づいているのか。いないのか。
終章の展望を述べた部分で途端に表現が気弱になるのは、気づいていたためか。それとも気づかないなりに不安を感じたのか。
もしも、彼の生み出した錬成陣で人が死ねば、彼はどうなるのだろう。

錬金術師としての男は、純粋に彼の研究を賛美している。
軍人としての男は、純粋に彼の研究がもたらす成果に感嘆している。
錬金術師でもあり、軍人でもある男は、二つの狭間で少年を案じている。
だからけして鋼の錬金術師を賞賛することはない。
だが。

少年がこちらに向き直ったことで、そのテーブルの上が見えた。
ティーセットと開かれた手帳、重ねられた本が二冊。その上に。
「…それは」
3本の薔薇をただ束ね、細い白リボンで結んだだけの花束。
紫の薔薇。
その横に伏せられた小さなカードに何と書かれているのか、男は知っている。
面と向かってはけして言えない言葉。
「ああ、これ。何かにつけて送ってくるんだ」
ロイの視線に気づいて花を見下ろす目は、ふと柔らかい色を帯びてはいまいか。
きりと吊り上げられていた目は、微笑んでいないか。
それが、欲しかったのだ。その柔らかな笑みが。

「なあ、どういう意味だと思う?」
カードは見なくてもわかる。わざと流麗な花文字に凝った装飾を重ね、筆跡をわからなくしたそれにはただ一言、「君の才能に捧ぐ」と書かれているのだ。
ただただ溢れんばかりの賞賛を込めて――。





「そもそも紫というのは赤と青の混色。青薔薇は不可能の象徴。紫の薔薇というのは、不可能に手を伸ばし、届かずにいる俺を揶揄しているってことだろ。さらにこのカード、俺の才能はしょせんこの程度だってことだろうが…くそ、腹ァ立つな!」
憎々しげにまくしたてる少年を、男は言葉もなく見つめた。
ここまで、ここまで曲解するとは!
いや、待て。錬金術師としては具象学的観点からものを見るのは間違っていない。エドも数式を用いる物理錬金術に長けているとはいえ、ロイとは違って具象学にも造詣が深い。この解釈は間違ってはいないのか。いやしかし、私の本意は!





「む…紫のバラの人を知らないなんて、君はどんな教育を受けてきたんだ!」
走り去る軍人を、少年錬金術師は小首を傾げて見送った。
冷静で皮肉屋の軍人の瞳がうるんでいた気がするのは、あくまで気のせいであると少年の頭の中ではきれいに処理され、速やかに忘却された。




だから彼は後日なおさら首を傾げることとなる。
宿に届けられた見慣れた紫のバラと、とある少女漫画の既刊全巻セットに。


またもアホなものを書いてしまった……。

紫のバラの人、を気取りたかった大佐。
エドはそんなの知らないから。
錬金術に関してはエドは雑食です。あーこんなところにダン・ブラウンと「グノーシスの薔薇」影響が。
あーこのエド←ロイは、完全にエド無自覚です。好かれてる事にも気づいていない。キャ。これはこれで萌。




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