Grave Autumun

季節モノということで、ハロウィンネタを。 そしてなぜか軍批判。

2006/10/22

街を並んで歩くと、やはりこの時期にはオレンジと黒の配色が目立つ。
赤と緑ならクリスマス、黄色と黒なら工事中、なのと同じで一瞬で「それ」を想起させる組み合わせ。
パン屋にはパンプキンパンがお目見えし、八百屋では生長しすぎたオバケかぼちゃの目方当てが行われていた。

いつものチョココルネを買うとオマケでアメがついてきた。少年の手の中に押し込められたアメ2個の包装紙はやはりオレンジと黒だ。レジでげんなりとロイを見上げたエドだったが、気の良いおばちゃんにそれを突き返すような真似はしない。
店を出たロイは我慢できずに吹き出した。

「Trick or Treat!」
むくれたエドはなかばやけくそのように包装紙に書かれた言葉を読み上げ、アメをロイに押しつけた。
「いらないのかい」
「どんなお子様だと思われてんだよ、俺!」
アメは子供だけでなく買った客皆に配られていたようだったが、それを指摘するのは彼の自意識過剰を指摘すること。少なくとも前の客は1個しかもらっていなかったからサービスはサービスだった。
「まあ、いいじゃないか。得したんだから」
良かない、とぶんむくれるエドにロイは「Trick or Treat」と同じ言葉を耳元に囁き落とし、その手からアメをつまみあげた。
「貰う方が言うセリフだろう?」
にっと笑った顔はしてやったりで満ちていて、知らず頬を染めたエドはさらに悔しさで赤くなる。



「にしても、この風習の形成は興味深い」
「元は収穫祭だったはずだろ。この時期なら」
「それにいろいろ混じってる。東部の死者が甦る日という迷信とか」
「ああ、それは東部なんだ?」
「ザカールあたりだな。炎を焚いて祖先の霊を迎える」
「そこから幽霊の扮装で子供たちがお菓子をねだるという模倣が生じる、か。確か魔女のサバトもこの時期だよな」
「どこかの山に集まって集会をやるとかだったか、私はあまりよく知らないが」
「オロデンの山。ただ西南部にあるオロディンの山とは別物で、実際の所在は魔女しか知らないとか。
ハロウィンにカボチャが採用されているのは収穫時期だからとしてなんで顔を彫るかな……なあ、あれすごくねえ?」
言葉を切って指差したのは、おぼろな光を放つカボチャだった。だが、その表面に刻まれているのは顔ではない。中をくりぬいて蝋燭を入れてあるのは普通だが、表面には細緻に幽霊と墓場が描かれている。明暗だけで描かれたそこに巧妙にHalloweenの文字も見える。
「芸術だな」
あっさりした反応にエドもあっさりとうんとうなづき通り過ぎる。

「さっきのカボチャの話だが、怖い顔のランタンを軒先に吊るして悪霊を追い払うという意味があったらしいな」
ああ、じゃあよく見るニコニコ顔のカボチャは本来の意義を見失っているわけか。
「悪霊を招き入れそうだ」
「ダメじゃん」
2人は声を上げて笑った。 こういう時間を幸せだと、ロイは思った。
くだらぬこと、日常の些事に加える分析。知的好奇心。だが日々どれだけそれを満たせているだろう。山積する仕事に達成感はあっても、好奇心をくすぐられることはない。このグズが、バカが、と心の中で罵りながらも、回転する頭は「効率的な作戦」「突発時の適切な対応」エトセトラエトセトラを撒き散らす。
プライヴェートは、というと、女性はそもそも論理的な会話を忌避する傾向にある。



「普段、私がどれだけこういう会話に飢えているか、君が知ったら驚くよ」
しみじみと言うとエドは冗談だと思ったらしくふんと笑った。
「君にはアルフォンス君がいるから、いいだろうが」
「でもアルと話が合わないこともあるぜ」
アルのやつ音楽とか好きで、しょっちゅうラジオ聞いては流行をチェックしてるし、ライ…ライノ何とかの「伸びやかな3オクターブの奇跡の歌声」とか言われてもわかんないっつーの!
音楽的素養が全く感じられない兄に比べて、確かに弟は「音楽と芸術、自然を愛し」という感じだなとロイは内心うなづいた。だがいくぶん興味の分かれるところはあっても、彼ら2人は実に高い知性の持ち主だと言うことは確かだ。打てば響く会話と議論、それが常に手に入ることの羨ましさ。
ロイはエドと過ごせる時間の短さを思って嘆息した。





「ハロウィンがごたまぜの祝祭として残ってるのは、やっぱりかつての国土拡大の政策一例ってところかな」
「そうだな。風習の違う民による侵略と、支配される側の懐柔。折り合いを付けていった結果、10月11月の行事が一つにまとめられたのだろう」
「…そういうの研究している人少ないじゃん?」
「歴史家だな。少ないわけじゃない。むしろ村に行くと詳しい人間がいたりする」
ロイは話の飛び方に少し眉根を寄せた。
「だけど系統立てた研究が進められているわけじゃないし、その人たちの意見交換の場も少ないよな。錬金術師と違って」
「それは…」
「それは歴史を調べることは、軍の不都合につながるからだよ」
街路でできる話ではなかった。イチョウ並木にぶら下がるオレンジと黒のフラッグの列。それなのにこの天才の話はいつだって的を射ている。
エドが声を落とす。

「ハロウィンごときも調べていけば、かつての侵略が民衆を懐柔する方向へ向かっていたことなどすぐに想像ができる。それなのに今の軍はそんな前例に倣うことなく、殲滅戦を行う。それがどれだけの反発を招くかなんてわかりきってるのに」
「そうだな」
頷くのがあまりに素直だったので、エドは相づちだと見過ごした。軍人で士官であるはずのロイが頷いていい話ではなかったのに。
「だから歴史家は軍を恐れて口をつぐむ。基本的には隠居の道楽だってこと多いし」
賢者の石の伝説を訪ねていけば、その土地に詳しい翁に出会うことはままある。そして彼らのふんだんに所蔵する書物の中にヒントを見出すこともまれにある。彼らは実に思いがけない貴重な本を隠し持ち、価値のわかる者にだけそれを見せてくれる。
「話し相手を見つけると喜ぶんだよな。でも俺が国家錬金術師だってわかると態度変わっちゃう人もいてさ」
エドはロイを横目に見上げた。
「一度、夜逃げされそうになった」
「夜逃げ?」
「俺が軍の狗だって後で知って、自分がした話に不安になったんだと。で、翌朝行ってみると」
「もぬけのからだったわけか」
いいや、とエドは口元に笑みを浮かべて首を振る。
「家の中で気を失っててびっくりしたよ。秘蔵本の一部を持って逃げようとしてたんだけど、背中に背負った途端によろめいてこけたんだってさ」
ロイもふっと笑う。エドの言いたい事はわかるから大きく笑うことはできないが、それでも愛すべき老人だ。

「俺たちがそんなつもりじゃないこと、ちゃんとわかってもらったけど、それでも」
「軍の圧力は、無言で民衆に言論の統制を強いている」
断定口調。それを言ったのはロイだ。
「ああ。だからこそこの国の学問はいびつに進化してる。前へ進んでいるのは錬金術くらいで、それ以外の学問は錬金術を補強するためのものでしかない。俺にはもっと知りたいことがあるのに、誰もそれを研究してないんだ。俺に一人で何もかもやれって言うのかよ」
それは事実だった。発達しているのは生活に密着した技術、それに達成するための工学。錬金術研究に伴う化学、ツールとしての数学。それくらいのものだ。文学は大衆向けの娯楽にとどまり、歴史や言語などはまったく研究されていないに等しい。なぜならそれは必ず過去への遡及という一面をもつからだ。だから統制の対象となる。どんなにエドが必要としようとも。



「私が大総統になったら、研究所を作りたいな」
「おい、ここ街中だぜ」
さっきから人に聞かれたら困る話をしているのはどっちだ、とロイはエドをこづいた。
「君が所長になればいい。いろんな研究をしていいよ。人を集めてテーマを与えて、自由に研究を」
それは結局軍の研究機関ではないのかという言葉を飲み込んで、エドは夢想する。
ロイが大総統になったら、軍の狗であることをそんなに気にする必要はなくなるかもしれない。支援はないとやっていけないだろう。しかたないから研究結果の一部なら軍に提供してやってもいい。通信設備とかもっと改良する余地がある。あと論文の謝辞に一文入れてやろう。


「いいかも、それ」
「だろう?」
二人はいい笑顔で笑った。


現実逃避する2人。
なんか長くなった…。
理知的な会話をしたいってのは、実は私の最近の願望。
知的好奇心が満たされません!
テンポのいい、ぽんぽん投げ合うような話がしたいー。ああ…。

当初は軍批判とかするつもりじゃなかったのに。
ハロウィンうんちくから、ロイの「話し相手のいる幸せ」で終わるつもりだったのに、なんか変な伏線になってしまったので、続け……たら長くなった。
お付き合いくださりありがとうございます。









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