また、明日2

2004/02/10

「何でそんなところにはまり込むかね」
「うっさいな、もう」
あっちの書類をこっちへ積みなおし、目を通した物はテーブルの方に移し。そうするとずいぶんマホガニーの机の上はすっきりした。
「さ、いいよ」
ちぇ、と少年は机から下りる。屈辱だ、こんなの。俺は大佐に怒ってるんだぞ!しないって何だよ、しないって!だいたいそもそも、その言い方が。


腕を引かれる。
目の前が青でいっぱいになる。
――ここはあおであふれているけれど、たいさのあおは、べつ。
ちょっと固い布地が押し付けられて、腕の中にくるみこまれたのだと知る。
金の髪をかきあげて、額にキス。目元にキス。首元にキス。
降り注ぐ祝福のような口づけに頭をのけぞらせる。条件反射的に背中に手を伸ばしながら、「しないんじゃなかったのかよ」と見上げる。


「しないよ、明日に差し支えるからね」
にっこりと返されて、がくりと金属と生身の腕、両方が落ちた。
「…俺は愛玩動物じゃねーんだけど」
「だが、触れていたいんだ」
真顔で言いながら、痕をつけない程度に唇を押し当てる。その恥ずかしい大人ぶりに少年は頭を抱えた。
「――それでもしないわけ」
「しない」
再度、未練を込めて聞くと、やけにきっぱりとした返事が返ってきて。
「なんだよ、せっかく、一日早く戻って来たのに」
思わず愚痴もこぼれようというもの。だが。



「何で早く帰ってくるんだ、君は」
熱い吐息が鎖骨をくすぐった。肩に頭の重さ、頬に黒髪があたる。
さっきから酷いコトばかり言われている気がするが、このセリフにはさすがに激昂しかけて――抑えた。そのことに少年は、偉いな、俺と冷静に考える。
電報を打った後で、少し遠回りだけど2駅戻ってうまく乗り換えられれば一日早く戻れるって気づいたから、アル連れて飛び乗って。
俺は早く会いたかったんだよ、あんたにさ!!
と思いながらもこれだけは口には出すまいと、少年は心に決める。それだけは絶対。
可愛げないことばっか言いやがって、このバカ大佐!
手持ちぶさたに黒髪を手にとり、くるくると鋼の指先で回す。それは短すぎて、すぐに指から飛び出していってしまう。
焔に羽根を焼き尽くされて堕っこちようとしてるのって、もしかして俺じゃないの。
西の愚か者。
届かないものに手を伸ばして。
「――あ。無能が昂じて、不能になったとか言わないよな」
「…鋼の。言いたいことはそれだけかい」
すっと目の前に突き出されたのは、発火布の左手。指を鳴らす形の。



そうまでしながら、男の方はどうあっても肩から顔をあげようとしない。
実に大人げない。が、それは今回に限ったことではないし、むしろそんな所が――だったりするわけで。
やっぱり想いの天秤は一方的に自分の方に傾いているようで、すごく悔しい、と少年は思った。
「君は…」
構えられていた左手が、くたりと鋼の腕に落ちた。

「君は明日の夜に帰ると言っていたじゃないか。
だから私はこの4日間ちゃんとサボらずに仕事をしたら、あさって一日休んでいいと中尉に約束を取りつけたのに……」
最後の方は口の中に消えていく。けれど、その言葉を聞き逃すような耳ではなくて。
そうか、それで。
中尉はあんな顔してたんだ。しかもみんなその約束知ってて…うわ、恥ずかしくないか、それ。
けど、恥ずかしいのは俺の方かも。
少年はほころびそうになる顔を抑えきれない。
俺、こんな――。



「やっぱり大佐って、バカ……」
そのセリフに反論する気力もないらしく、ただ肩に顔を埋めたまま微動だにしない彼の背に、手を伸ばす。今度こそ、しっかりと抱きしめて。
「鋼でも、偽物でも、腕があってよかった。大佐のこと抱きしめられるもんな」
そんな言葉を耳に吹き込めば、ようやく顔を上げる。
不機嫌そうに、顔をしかめて。

「だから、君が予定通り明日帰ってきてくれたら、笑って出迎えられたのに」
思ったとおりの表情に、思わず笑い声がこぼれた。
「じゃあさ、明日出迎えてくれたらいいよ。ちゃんと仕事終えてさ」
俺、出直してくるから。
ぽんぽんと背中を叩いて、離れようとする…がしっかりと上着をつかまれていて。
「おおーい、大佐?」
「ちょっと待て。それで行ってしまうのか?」
あんたが明日ならいいって言ったじゃん。今日はだめって。
「だって、しないんだろ、今日は」
今日は、を強調してやると恨みがましい目が。
ここで照れたりしたらかわいいんだけど、それはないか。いいよ、ダメな大人の大佐にはそんなことは要求しないから。

「だから、今日はさよなら」
少年は服をつかんだ手の甲に唇を落とすと、身を翻した。

背後で閉まるドアの隙間から、柔らかな低い声が追いかけてくる。
「また、明日」
ドアに背をとんと預け、少年も呟く。
「――また、明日」
少しの間。そして左右の音の違う足音が、遠ざかっていった。



ちょっとしっとり目に終わりましたが、やってることはHの約束です。明日の夜から明後日は丸一日ですか。そりゃあ大佐も大変だなあ。何しろ相手はピチピチの15才だし。

それはさておき。
うわーなんですか、このダメっ子な大佐は。
げふげふ。
まったく29歳の成人男子としてどうなんですか、これ。
大佐、エドに思う存分甘えっ子。
心を許した相手には甘えまくるお人だと思うの。
中尉とかハボとか。中尉は甘やかす程度をわきまえております。ハボはかなり甘やかします。
エドは…エドも甘やかします。
エドは大佐にメタ惚れです。ギャ。

黒鴉からつながっている、とか言ってますが、つながってるのはエドのセリフ一言だけです。
西の愚か者うんぬんの。

微妙に三人称とエド一人称が混じり…。
最初はそれで良かったんだけど、段々客観性を失いつつある時点で大失敗。
話書くのって難しい…。



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