大佐にVネックを着せ隊 / 「朝の風景」

2004/03/01 ,03 SS追加

しょーこりもなく、なのは、これがキャンペーン第2弾だからであって、
第1弾は「焔の錬金術師の休日」です



[ 朝の風景 ]

ぱさりと紙をめくる音がした。柔らかい音。

俺の目覚ましはいつも金属音だった。アルの足音。ひそめてはいても、一歩踏み出すごとにがちゃりがちゃりと鎧の繋ぎ目が音を立てる。それはオレだってご同様なのだから仕方ないことで、最初の頃気になって眠れなかったそれにもいつしか慣れてしまっていた。
その音の代わりに、紙の音。それからやかんがしゅんしゅん言って。
木の床を椅子が引かれ、乾いた足の音がする。
汗かかないんだろうな。そんな足音。
かちゃりとガスコンロをひねる音がして、しゅーと湯気が上がっている。
戻ってきた足音の主は、きっと湯気の立つカップを手にしているのだろう。



「やあ、起きたかね。鋼の」
その言葉に半分寝惚けていた頭が覚醒した。
ぱっと脳ミソのカーテンが取り払われ、鮮明に思い出すのは昨夜のあらまし。
うわ、けっこう大胆、オレ。大佐ンちで夜を明かしちまった。


大佐はドアを開け放した先のダイニングで新聞を広げている。
綿の長袖Vネック。色はナチュラル・グリーン。下は色褪せた茶色のカーゴパンツ。ずいぶんとリラックスした格好なのに、やっぱり大佐は軍人だ。背筋が伸びてて、普通に座ってる姿も……
「――なんか偉そう!」
思い浮かべた言葉は口にするのは腹が立つ部類のものだったので、そんな言葉に代えた。
「起きてこないのかね」
誘うようにこちらに向けた、その手には白い湯気を漂わせるボーダー柄のマグカップ。
「う―」
唸ってみせると、顔も向ける。
「ささやかだが、朝食も用意したんだが」
「起きます」
あっさりとオレは白旗を揚げた。



のそのそとダイニングへ向かうと、大佐の姿はない。キッチンとの間のカーテンが揺れていた。
もう一つの椅子を引いて座ると、二つに折られた新聞の一面が目に入った。南部の戦況を報じるものだったが、そこには悲惨な写真と広がる戦火への疑問が記されていた。
こと、と音がして大佐が隣に来ている事に気づく。思わず読みふけっていた。



「どうした?」
「いやー…あんまりはかばかしくないじゃん、南」
「そうでもないさ。これが連日、勝った、敵を撃破、我が軍優勢、なんて記事ばかりになってみろ。それこそ要するに負けが込んでるってことだ」
だから、この程度のことを言えている今はまァマシなんだ、と大佐は皿を並べた。
実際にそれなりの成果は上げているよ。
そう言われ、そうか、大佐ならこんな新聞の報道じゃなくてきちんとした戦況を知ってるのか、とオレは首をすくめた。



「ていうか、なんかすげェ…!」
「他に表現はないのかね、君は」
「……ブレックファーストみたいだ―!」
「正真正銘のブレックファーストのつもりなんだが」
棒読みで答えると、いつもよりも低い声が返って来た。 あまりからかうと、料理に関しては沸点が低そうなのでやめておく。
ベーコンにスクランブルエッグ、トマトとレタス。それに焼きたてのパン。
とりあえず見かけは完璧だ。ベーコンはジュージュー言ってるし、スクランブルエッグのふわふわ感も合格。ケチャップソースがお子様扱いな気もするが――いや、いい。好きだし。

「大佐、朝とか食べない人かと思っ…」
早速スプーンを口に運びながら言いかけて、沈黙。
大佐の前にはマグカップ。
…だけ。
「大佐ーもしかしてこれオレの分しかない?」
「…」
「まあ、朝を食うか食わないかは人それぞれだし、別にオレ気ィ使ったりしないし、いいけどー」
とりあえず、すっごくおいしいよ、これ。
そう言うとパアと顔が明るくなるのが可笑しい。
うちは食事はみんなで一緒に食べましょう、という家だったし、そもそも軍人が朝食えなくて務まるのかいう疑問は置いとくとして。

オレが食ってるのを、大佐は楽しそうに見ている。
「――鋼のは」
「ん?」
「ずいぶんとマナーがいいんだな」
フォークの使い方も上手だし、がつがつ食べてる割に音をさせたりしないし。
数え上げる大佐はまた楽しそうで。
あーこれ言ったら…どんな顔をするかは簡単に想像がつくな。けど言う。

「そういう風に躾られたから」

――母さんに、という言わなかったそれを正確に読み取って、この男はそうか、と組んだ手の上にあごをのせて、じっとこちらを見る。
な。そういう顔だよ、ほら。
「だからさ、そういう目でみないでくれる。同情は大きな勘違いだっての」
オレはぴこぴことスプーンを振った。
「オレたちにとって母さんの思い出は、けっして罪の記憶だけじゃないんだから」
そう言いながらも、オレの視線はスプーンを握る鋼の義手に落ちる。
母さんはいつも笑ってたんだ。


「そうだな。そういうものだ」
大佐が誰を思い浮かべているのかも、容易に想像がついた。その声はずいぶんと優しかったから。
死者の記憶は、なぜこんなにも幸せなものばかりなのだろう。
「いつか聞かせてくれ、お母さんの話を」
あれそのものを目にしてはいなくとも、その痕を見たと言っていた。血飛沫の散った倉庫。それでも聞いてくれるって言うんだ、この人は。
「うん」
オレはスクランブルエッグをすくう。母さんのとは味が違うけど、それでも同じくらいおいしいと感じた。





「ところでさ」
コーヒーを注ぎ足した大佐は、「なんだい」と口元に笑みをつくる。
「今日はお休みだって、何で昨日教えてくれなかったわけ」
無言で目をそらしやがった。
「今日も仕事だと思ったから、オレ我慢したのに」
「我慢してアレか!」
「でも、まあいいよ」
「だいたいいきなり来て…!」
「今日はまだ長いんだし」
「……何?」

「あ、あと髪の毛ハネてるよ」




本当に単なる情景描写、だ。
オチも何もなく、ただエピソードを重ねてるだけですね(汗)。
精進します……。
まーでもエドが手加減したおかげで、大佐はこんなに動き回れているのだよね(笑)。

ついでに朝つながりで絵板絵も置いておく
なんか色似てるし






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