「どう思うかね、少尉」
「なんで俺にそんなこと聞くんスかー…」
書類を抱えたハボックは大佐の前を素通りしようとする、が。
「……あのう、大佐」
「何が一番喜んでくれるだろうか」
「裾、掴まんでくださいよ」
「これが何のためにあると思っているのかね」
いや、部下を捕まえるためではないだろう、とハボックは嘆息した。
「……そーっスねェ。ハガネの大将なら本じゃないんスか」
「――ハボック少尉、君はモテないな」
「余計なお世話です」
むりやり彼女と別れさせられたばかりの少尉は即答した。
「いいか、そんなありきたりのものではダメなんだ。ホワイト・デーというものは、クリスマスや誕生日といった他のイベントと違い、とても微妙な位置に存在する。
バレンタインは個人の自由だが、ホワイト・デーは貰った者にとっては強制イベント!当然あげた方も何かお返しがあると思っている。
と、いうことは、だ!」
びしっと指を突きつけられ、ハボックは思わずのけぞった。
「プレゼントをするというその行為自体に驚きはカケラもなく、必然的に目玉となるのはプレゼントの中身!
毎年同じモノなんてのは持っての他だし、相手に期待外れの感を抱かせてもいけない。更に複数の女性から貰った場合は、内容物が決してかぶってはいけないし、なおかつ金額や見た目に大きな差があってもいけないんだ!
わかったか、少尉!」
いつになく熱弁を振るう大佐。
「はあ…なるほど。――俺も貰えるアテがあったんスけど、ついこの間誰かさんのせいでね…」
愚痴ってみるが、案の定相手は聞いてはいなかった。
「鋼のの場合、本なんかじゃ『ああ、ありがとさん』で流されてしまうとは思わないか!」
「あー…そんな気もしますね」
「しかも絶対にすぐ、その場で読み始めるんだ!」
要するにあんた、放っておかれるのが寂しいんスね……。
――そして俺は放っておいてほしいんスけど。
「大佐、少尉を捕まえて何をしているんです?ハボック少尉、戻っていいわよ。大佐も仕事してください」
「ああ、中尉!ありがとうございます」
救いの天使の登場だった。
「中尉はどう思う?」
がんとしてソファから動こうとしない大佐は、無駄にきりりとした表情で尋ねる。
「――そうですね」
これは答えないと動きそうにもないと思ったのか、ホークアイ中尉は大佐に向き直る。
「バレンタインにエドワード君からチョコもらえてたんですね。それはおめでとうございます」
事務的な口調で言われた言葉。
固まる大佐。
「そ…そう言えば」
「あ?大佐、貰ってないんスか?」
貰ってもいないのにお返しをしようとしていた、ロイ・マスタング大佐、29歳。
「い、いや…チョコじゃないが、何も貰ってないわけでは…」
ブツブツ呟き出す大佐の顔はほんのり紅く染まっていてなかなかに見ものだった。
「それで大佐、一体何を貰ったんです?」
そこで大佐ははっと我に返る。いつのまにか全員が執務室に集まってきていた。
「――…し、仕事に戻りたまえっ!!」
「大佐もお仕事してくださいね」
ぞろぞろ出て行きながら、中尉が釘をさす。
重々しくそれにうなづきを返した大佐だったが、全員が出て行った瞬間にテーブルに顎をつく。
「……アレは、私がやったことになるのか?それとももらったのか…?…うう…」
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