Ugly Innocence

2004/05/17

「無知を理由とするのは醜いな」
ああ、そう。と俺は返し、重たい本を持ち直した。
仕事が終わらないとぼやく大佐を横目に、俺は執務室のソファに半ば横たわり本を読んでいた。
それは一枚の書類で手を止めた大佐の言葉。
無知ゆえに大罪を犯した俺たちを断じているのか、それとも無知を理由に逃げることなく、己の犯した罪を背負う俺たちを逆説的に賞賛しているのか。
本人を前にしている時点で普通なら後者なのだが、大佐の場合はどちらとも言えない。むしろ前者である可能性も十分にある。あるいは痛烈な皮肉としての後者。この男の謎めいた物言いに幾度踊らされたことか。そして時に、あまりに率直な言葉に何度赤面させられたことか。
今回はいったい何を望んでいるのだろう。
興味を感じないではなかったが、誘われるままに相手のフィールドに上がることへの躊躇いもあった。 だから俺はページをめくる。


「知らなかった、と言うんだ」
どうやら話は俺のことではなかったらしいと察して、誰が、と話を促す。
どこか空虚な、楽しげな表情で軍人は、テロリストなんだがねと言う。
つい先日の繁華街の爆破事件のことらしい。イーストシティの一角、小さなカフェや小物の店が集まる狭い路地がある。そこで爆破事件が起きた。
爆発物はある男の持っていた書類かばん。その中に小型の爆弾が入っていた。
結局死者3名、重軽傷者14名、その他建物倒壊等の被害が出た。
男はかばんを持ってあるカフェに入ったが、トイレに行くと言って席を立っている間に爆発が起きた。男は擦り傷を負ったが惨事を免れ、身柄を拘束された。




「で、知らなかったと言うんだな」
これが、とやはりどこか楽しげに軍人は言った。
「そのかばんは取引先から渡されたもので、しばらく預かっている約束になっていたらしい。そしてトイレに立ったのも偶然だとね」
実際にその男に思想的なバックグラウンドはなく、軍部への怨恨なども考えられない。実行犯として声明を出してきたテロリスト達とは、その会社を通したつきあいだったようだがね。要はうすうすそれと知りながら、会社は利益のために彼らと手を組んでおり、それに平社員がつき合わされていた、というところだろう。

「それなら、そいつは無実じゃねェの。単なる運び屋にされたってことだろ」
俺はいいかげんに本を置いて、ソファから身を起こした。
「まあ、そうだろうね」
「それよりその取引先ってのは押さえてるのかよ」
「彼らは前々からうちが目をつけていた会社でね。まあ、もちろん夜逃げ済みだが」
ハボックの隊が追いかけているよ、と大佐は笑う。
「じゃあ、問題はないだろう」
このやろう、何か言いたいことがあるならさっさと言えばいいんだ。内容を少しづつ小出しにされるのは焦らされているようで好きでない。
「死者が3名出ていることを知っているね?」
声が優しくなる。うつろな笑みはそのままで。俺は気持ち悪いと思いつつも、耳を塞げない。



その中の2人はその男の妻と、その愛人なんだよ。



残る一人は完全なとばっちりというところだね。
男は確かにその中身を知らなかった。かばんには鍵がかかっていたらしい。
けれど、男は何らかの理由でそれが爆弾ではないかと疑っていた。
彼は恐ろしい凶器が手に入ったことを知り、日ごろから憎んでも飽き足らなかった妻とその愛人を殺すのに使おうと決心したんだ。

完全な推測で語られるそれは真実なのか。現実はそんなに単純ではないはずだと思いながらも、俺は単純な現実というものを信じてしまいそうになる。
そうであればよい、とそう思っているがゆえ?
世界がもっとわかりやすい形をしていたならば。
俺たちは過ちを犯すこともなかったのだろうか。



俺はそんな歪んだ暗闇から思考を引き剥がす。
「ていうかさ」
なげやりに言葉を放る。
「この世で最も醜いのは、恥を忘れた狗だろ」
「違いない」
大佐は間髪を入れずにそう答え、嬉しそうに笑った。



俺にはこの男がわからない。
この男と共にいる自分がわからない。
衝動にまかせて抱いて以来、ずるずると関係をもっている自分がわからない。
それに流されているこの男もわからない。



俺はわからないふりをして手を差し伸ばし、罪を抱きとめ、口付けた。



せ…整理しきれてない…。 こんな短いのに話の整合性に欠けるってどういうこと…! しかしもう全編書き直すぐらいしか手立てを思いつかなかったので、 挫折してUPしてしまいます…。

たぶん、単純ではない現実と、外から見たら単純に見えてしまう現実というものを書きたかったんじゃないかと思うんだけど…(汗)。
私は全てを単純に見てしまう人間なので、本当にダメ。モノカキとしてもダメなのよね。人間観察とかが苦手です。
要するに、と一言でくくってしまいたくなる。人間はそんなもので説明できるようなものじゃないのに。 ずっと言葉でくくられて、「それは言葉の上では正しいけれど、私自身の現実というものからはかけ離れている」と感じてきた私が、今はそうやってくくってしまうことの方が簡単で楽だと知ってしまって、そっちに逃げている。ダメだなー私。



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