葉はぺたぺたとやってきてホロホロの隣に腰掛けた。
「わっかんねーかなァ?バイクの似合う男は違うぜ!」
「ホロホロは竜が目標なんか。まあ、がんばれよ」
「ちげーよ!!オレが目指してるのは、こうもっとビッグで……」
不意に陰った陽の光にホロホロは言葉を切った。気付けば隣でがたがたと横揺れしている葉。
これは……
天を振り仰いだホロホロの視界を圧倒するのは、当然、暗雲を従えたこの邸の女主人。
「葉?何をサボってるわけ?」
険悪な目つきだが、言葉は穏やか。数珠を首に引っ掛けられ引きずられていく葉に、
ホロホロは黙って手を合わせた。
「ふん、情けない奴だ」
いつの間に上がり込んだのか、聞き慣れた声にホロホロは振り返る。
柱を背に腕組みをした少年は常と変わらず挑むようにヒトを見つめる。
「大体バイクなど、所詮排気ガスをまきちらす現代の害悪の最たるものだ。
いつまでもあんなものに乗り続けるとは、ヤツもシャーマンとしての自覚が足りんな」
一体いつから話を聞いていたのだろう…といぶかしく思いながらも、
ホロホロは「別に自然を守るだけがシャーマンじゃないだろ」と言う。
「そりゃ、オレだってフキ畑作んなきゃ何ねェけど、
だからって扇風機も冷蔵庫もない生活をする気はないぜ」
蓮は不満そうにふんと鼻を鳴らす。反論は出来ないらしい。
「大体貴様にはスノボーがあるだろう」
「スノボーじゃ街はムリだろ。街中でオーバーソウルするわけにも行かないしな。
男ならバイクだぜ!」
蓮はむっとした顔で、自分も縁側に腰掛けた。
「俺は馬がいい」
「絶対バイクの方がイイぜ!速いし、カッコイイしな!」
「ふん、オレの白鳳が貴様の原チャに負けるとは思えんな」
「原チャじゃね――っ!!もっとでかいヤツ!竜のみたいなの!」
子供のように両手を振り回すホロホロから距離を取り、蓮は口元を引き上げる。
それが柔らかな微笑みになっていることを自分でも意識していない。
「フッ、それなら今度竜に貸してもらえばいい。
だがあんまりバイク、バイクとうるさいと、また貴様の持ち霊に逃げられるぞ」
「うお、コロロっ!?てゆーか、もういね―し!!」
がっと立ち上がり探しに行きかけて、ホロホロは立ち止まる。
「いや……バイクは別にいいんだ。ただカッコイイと思っただけで」
それに、とホロホロは胸を張る。
「バイク買うどころか、免許取る金もないしな!」
「威張って言うな――っ!!」
蓮のとんがりがにゅっと伸びた。
その様子にホロホロは何かを思い付いたようで、にかっと笑う。
「?」
「あと、バイクなんかより、乗りたいもんあるし――?」
「ん?白鳳は貸さんぞ」
馬なんか乗れっかよ……とポケットに両手を突っ込んだままで、
蓮の前まで戻ってきたホロホロは不意に腰を屈め、間近に蓮の顔を捉える。
珍しく真面目な顔に蓮はびくりと身を引く。
「な、何だ……?」
「オレにはステキな愛車があるからさ。サイッコーの乗り心地の?」
わずかに細めた目と意地悪な笑み。
きょとんとした蓮の頭にその意味が浸透するまで、まばたき三回。
みるみる白い肌が赤く染まり、少年は俯いてしまう。
その変化をくまなく観察したホロホロが、このまま抱きしめちまおうか、と不埒な事を考えた時。
「か……」
「か?」
「勝手に空の星にでもまたがってろ!」
「うおァっ!?」
ちゅどーん
「なんか今、すげえ音しなかったか?ホロホロ―…って、蓮、お前顔赤いぞ」
「貴様には関係ない」
赤く染まった頬に手の甲をぎゅっと押し付けて蓮はぷいっときびすを返した。
ちゅどーん
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